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2015/06/24

Topics研究室訪問記を追記しました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
PHAM NAM HAI
ファムナム ハイ
スピントロ二クス、強磁性半導体、スピンダイオード、スピントランジスタ、再構成可能、不揮発性、低消費電力、ノーマリオフ
ホームページ http://magn.pe.titech.ac.jp
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2014年度 奨励研究助成 新材料 東京工業大学 大学院理工学研究科電子物理工学専攻 PDF PDF
研究題名 再設計可能なやわらかいハードウェアに向けたスピントロ二クス材料とデバイスの研究

訪問記

最終更新日 : 2015/06/23

訪問日:2015/06/10
訪問時の所属機関 東京工業大学 大学院理工学研究科 電子物理学工学専攻 訪問時の役職 准教授

東京工業大学・PHAM NAM HAI(ファム ナム ハイ)先生を訪ねて
 先生の研究分野は半導体スピントロニクスです。まず我々の理解が進むようにスピントロニクスとは何かを、実用化が急速に進んだ磁気記録分野からご説明をいただきました。スピントロニクスは元々ハードディスク(HDD)の磁気センサなどに向けて、1988年に磁場によって大きく抵抗が変化するという巨大磁気抵抗(GMR)効果が発見されて、大きな研究分野に発展、1998年にIBMにより商品化、それ以降HDDの記録密度の向上に大きな役割を果たしました。その記録密度の向上はフラッシュメモリの記録密度の向上に比肩しうるもので、スピントロニクスにより20年間で4桁性能が向上しました。その動作原理は、数nmの中間層を2つの強磁性体で挟み、その磁化の向きを反平行にすると高抵抗となり、平行にすると低抵抗になるというものです。中間層を非磁性金属にするとGMR効果、絶縁体にするとトンネル磁気(TMR)効果が得られます。また同じくGMRの応用として、半導体メモリ(DRAM)を不揮発性化できる最有力候補として、磁気(抵抗)ランダムアクセスメモリ(MRAM)が期待され米国企業から商品化(64MB、2012年)されています。1~2年後に垂直磁気記録を使った1GB(ギガビット)のMRAMが商品化されようとしています。これは主メモリ分野での日本の半導体の復権につながります。また、MRAMのもう一つの特徴は書き込み方式に、スピン偏極電流により強磁性電極に磁化反転トルクを起こさせるスピン注入磁化反転を採用できることです。スピン注入磁化反転電流は素子サイズに比例する為、素子が小さくなればなるほど書き込み電流を小さくできます。10μAでも書込み可能で、磁界反転の1000分の1です。先生はこのMRAMの書き込み電流をさらに低下させる研究にも携わっているとのことです。
今回の助成研究の目的は、日本が弱体化した半導体技術に、日本が得意な磁性体技術を融合し、再度日本を元気にさせる半導体スピンデバイスの創製です。不揮発性のスピンダイオード、スピントランジスタ、磁化反転による抵抗の変化、動作点を変化させて機能を再構成することが可能な論理回路、ノーマリオフ回路などの超低消費電力の電子機器です。従来のメモリと半導体を個別に作り配線でつなぐのではなく、1つのデバイスの中に作り込むことです。IBMは脳を模した論理回路を有した半導体チップを開発しており、計算速度は速くないが従来できない計算ができる、言わばパラダイムシフトにつながるものです。様々な入力に対して出力を可変にする回路デバイス、その手段としてスピンの利用も考えられています。
強磁性半導体の代表は(Ga,Mn)Asです。GaAsにMnをドーピングすることで、キャリア(正孔)誘起の強磁性体半導体が出現、電界効果を使って強磁性を制御できる最初の物質です。しかしながら、このMn系強磁性半導体は、p型しかできない、キュリー温度が200K以下と低い、強磁性発現メカニズムが不明であることからモデリングができずデバイス設計が困難という問題があります。そこで2012年先生は、n型鉄系強磁性半導体の可能性を発表しました。当時、キュリー温度が1Kを超えるn型強磁性半導体は不可能であると誰もが信じていましたので投稿論文は拒絶されたそうです。InAsに9.1%と通常の半導体には考えられない程大量にFeをドーピングしてもきれいな結晶ができたそうです。最初は鉄金属の存在を疑われましたが、詳細に分析した所、InAsの結晶格子のInにFeが置換していることが分かりました。Fe系の利点は、キャリアとして別元素をドープでき、Mn系と異なりスピンとキャリア密度・タイプを個別に制御できます。現在、n型(In,Fe)Asのキュリー温度は65K程度で、p型(Ga,Fe)Sbは140K程度を達成、現在室温の目途を得ているとのことです。
  先生は最近世界初めて、強磁性の変調に量子効果を利用しました。電界効果により波動関数の形を変えることで、強磁性、キュリー温度を変調し、外からキャリアを注入することなく、非常に低消費電力で高速に磁性体を制御できます。キュリー温度を15Kから35Kに変えたそうです。半導体を使うことで量子効果の発現をもくろみ、量子効果が発現する材料を選択したと言います。研究室にはCMOS作製の専門家がいないため、ゲート絶縁膜によるリーク電流を抑制できず、電解液を介しての電界により強磁性変調を実証しました。ここまでできたので今後、n型とp型強磁性半導体を用いたスピンデバイスを試作し動作確認をしたいそうです。
  先生の説明に『世界初』が頻繁に飛び出て圧倒される訪問でした。同時に学会の常識を破るデータはなかなか信用されず、苦労されている様子も窺えました。東京大学から1年前に移られ人・設備の面などご苦労されているのではないかと思いますが、そんなことは全く感じさせない、日本を背負って立つアグレッシブな研究内容でした。  (2015年6月11日訪問、技術参与・飯塚)

著作文献紹介
  • * M. Tanaka, S. Ohya, P. N. Hai (invited review paper), “Recent Progress in III-V based ferromagnetic semiconductors: Band structure, Fermi level, and tunneling transport”, Appl. Phys. Rev. 1, 011102 (2014).
    * L. D. Anh, P. N. Hai, M. Tanaka, “Control of ferromagnetism by manipulating the carrier wavefunction in ferromagnetic semiconductor (In,Fe)As quantum wells”, Appl. Phys. Lett. 104, 042404 (2014).
    * P. N. Hai, D. Sasaki, L. D. Anh, M. Tanaka, “Crystalline anisotropic magnetoresistance with two-fold and eight-fold symmetry in (In,Fe)As ferromagnetic semiconductor”, Appl. Phys. Lett. 100, 262409 (2012).
    * P. N. Hai, L. D. Anh, S. Mohan, T. Tamegai, M. Kodzuka, T. Ohkubo, K. Hono, M. Tanaka, “Growth and characterization of n-type electron-induced ferromagnetic semiconductor (In,Fe)As”, Appl. Phys. Lett. 101, 182403 (2012)
    * P. N. Hai, L. D. Anh, M. Tanaka, “Electron effective mass in n-type electron-induced ferromagnetic semiconductor (In,Fe)As: Evidence of conduction band transport”, Appl. Phys. Lett. 101, 252410 (2012).